新潟の夏 田中理事

理事が持ち回りで近況報告や最近の思いを綴ります。
第8回目は田中理事より寄稿いただきました。お楽しみください。

新潟の夏

この度は私の第2の故郷である新潟県長岡市および新潟について,私なりの理解を紹介します.

皆様の新潟のイメージとして何を想像されるでしょうか.Chat GPTに尋ねますと自然環境として冬期の雪国のイメージが出てまいります.次にコシヒカリを代表とする米どころとして,そして温泉,花火と食文化,日本酒が述べられています.他県出身者として私が抱いていた新潟のイメージも同様ですが,新潟との縁も長くなると異なった側面も感じることがあります.新潟県は地図上で見ても細長い地理をしています.そのため地域によって気候や文化が大きく異なります.

まず雪国のイメージについて,これは川端康成の著作「雪国」を想い出される方も多いかと思います.しかし,それより時を遡ること江戸時代後期(天保8年)に鈴木牧之の「北越雪譜」によって広く江戸の人々に知られるようになったことがあります.越後魚沼の冬に降り積もる雪-厳しくも恵みのある自然-の中で生きてきた人々の暮らす姿を活写したこの書籍は江戸でベストセラーとなったそうです.ここで言う雪国とは,現在の新潟県では魚沼市(浦佐,小出),南魚沼市(六日町,塩沢),湯沢町(越後湯沢)のあたりを指しています.冬に山野に降り積もった雪は春の雪解けから夏にかけて豊富な水の源ともなります.春先は山菜,また初夏の魚沼地方は百合の出荷の最盛期を迎えます.盛夏には八色西瓜,秋にはもちろん魚沼産コシヒカリ.このように豊富な農作物が有名になったことも,雪の恩恵と言えるでしょう.

新潟県内は他にも積雪量1mを超す豪雪地帯があり,魚沼地方に近い十日町市,津南町と上越地方の妙高市(新井)が挙げられます.他の新潟県内でまとまった積雪(30~80cm程度)があるのは上越市高田,長岡市山沿いであり,海沿いの街である新潟市,上越市直江津,長岡市寺泊は例年の積雪量としてはあまり多くありません.また,佐渡市は島嶼地域特有の海流の影響で積雪量は少なく,夏も過ごしやすいことで知られています.

一方で昨今の夏の気温ですが,主要都市である新潟市,長岡市,上越市および県内の主な街の最高気温は軒並み35度を超えます.しかし,日中の高温も山から吹き下りる夕方の風により,すっと涼しくなります.この日較差が良い野菜や果実を育むのかもしれません.

私に縁の深い長岡市について少し紹介します.長岡市は人口約26万人であり,山に挟まれた市の中心部を流れる信濃川によってできた沖積平野であり,盆地のような地理的特徴から夏期の気温は高温になりやすい傾向にあります.先に挙げたとおり,夏の猛暑と冬のまとまった積雪のある気候的には厳しい都市です.しかし戦前より工業都市として発展してきた歴史があります.これは明治期のオイルラッシュにおけるさく井機械等の需要による機械工業の開始が起源とされています.昭和初期より工作機械産業も盛んになり,軍需工業都市の側面もあったため,終戦間際は長岡大空襲により市内のほとんどが灰燼に帰してしまいました.有名な8月初頭の長岡花火は,大空襲の慰霊のために始まった歴史があります.油田は戦後すぐに枯渇し閉山していますが,工作機械を始めとする機械産業はその後も継続して発展しています.また歴史的に工業を支える人材教育にも重きを置いてきた地域性は,まさに米百俵の精神を表し,新潟大学工学部(現在は新潟市に移転),長岡技術科学大学,長岡高専,長岡工業高校,長岡造形大学の設置にも結びついていると言えます.我が郷里(山口県宇部市)の名士である渡邊祐策の箴言に「石炭はやがて掘り尽くしてしまう.有限の石炭を元手に無限の工業を興さねばならぬ」があります.長岡市の先人もまた,同じ想いだったことでしょう.

最後に新潟の厳しい夏を乗り切る郷土料理を紹介します.新潟県は茄子の生産,消費量が多く,巾着茄子と呼ばれる丸みを帯び甘みがあり固めの茄子が好まれます.この巾着茄子と鯨の皮(皮下脂肪層)を使った鯨汁が暑気払いの料理として有名です.新潟県内でも地域によりレシピは醤油仕立て,味噌仕立て,具材も様々です.私は先述の材料に加え,夕顔を入れるスタイルが好みです.先人達は夏野菜である茄子と塩漬けされて長期保存の利く鯨の皮とで栄養を摂り新潟の暑い夏を乗り切ってきたのではないでしょうか.

 

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