ラテンアメリカ50年、個人的体験と ものづくり(3/5) 大竹茂様

2024年11月の第17回会員大会でご発表いただきました大竹様よりご準備いただいた原稿と写真を頂戴いたしました。5回に分けて公開させていただきます。

1回目の記事は→こちら
2回目の記事は→こちら

 

第二部:ブラジルでのものづくり体験

それでは、ブラジルでのものづくりの体験についてお話をさせていただきます。私は、2009年2月から2013年9月までの4年7か月タカタブラジル(エアバッグ、シートべト);2014年9月から2021年5月までの6年8か月住友理工ブラジル(自動車用ホース、キャニスター);の現地法人社長として、合わせて自動車部品業界で13年勤務しました。

これら2社での体験をお話しさせていただく前に、ブラジルの自動車産業について簡単にお話をさせていただきます。

 

VI. <ブラジルの自動車産業>

2023年のブラジルの自動車販売台数は2,308千台で、その内フレックス車が78%、電気自動車が4%でした。

現在、ブラジルも輸送エネルギーの脱炭素化、電動車の国内製造促進を進めており、各社とも大型の投資を発表しております。

さて、ここで、ブラジルのエタノール車について少しお話をさせていただきます。

1984年5月、初めてブラジルに着任し(ブラジル東京銀行)、会社のあるサンパウロのパウリスタ大通りを通った時に、何か甘酸っぱい匂いがするのを感じました。それは、自動車の排気ガスの臭いで、サトウキビから作ったエタノールを燃料とするために甘酸っぱい臭気になるということでした。(さすがに、今はそのような臭いはありません。)

1973年に発生した第一次オイルショックにより、当時国内原油需要の8割を輸入に依存していたブラジルは大きな打撃を受けました。そして、1975年に、エタノール利用促進策として、<国家アルコール計画>がスタートします。

現在、ブラジルでは、ガソリンへのエタノール混合が義務付けられており、基本的な混合割合は22%です(2001.2法律10,203)。

また、100%エタノール(含水エタノール)も利用されています。但し、100%ガソリンは利用されていません。

バイオエネルギー(エタノール)の開発ではブラジルは世界の先端を行っています。石油代替エネルギーとして開発がスタートしたエタノールは、今や環境にいいエネルギーとして欠かせないものになっています。

 

VII.<タカタブラジル:2009.2-2013.9>

タカタが自社のエアバッグが異常破裂して大規模なリコールに発展して、1兆円を超える巨額の負債を抱え、2017年6月26日、東京地裁に民事再生法の適用を申請して倒産したことは皆さんもご存じのことだと思います。

エアバッグは火薬材料として硝酸アンモニュームを使用しており、これが爆発して100分の1秒の速さでエアバッグが膨らむシステムになっています。この硝酸アンモニュームは高温多湿の環境(特に湿気)の中で異常爆発が起きる可能性があると言われています。即ち、車の安全部品であるエアバッグやシートベルトに材料として危険物質が使用されているわけです。

幸いにも、私が勤務していた時期には現地ではそのような問題は無く、取引先からは高い評価を受けており、因みにVOLKSWAGENやGMからは最優秀サプライヤー賞を受けていたほどです。

しかしながら、タカタとしては製品に火薬材料を使っており、通常の製品に比べてその安全性について格段の注意を払うべきことを認識していたはずであり、個人的には、エアバッグの異常破裂問題が発生した時に、会社(本社)として、何故、適切かつ迅速な対応ができなかったのか、残念でなりません。

また、社長のところには毎日膨大な情報が入ってきますが、多忙やコピーを理由に、社長として、そんなこと知らなかったでは済まされませんから、経営責任者として情報管理がいかに重要かについても思い知らされた次第です。

 

VIII.<住友理工ブラジル:2014.9-2021.5>

それでは次に住友理工ブラジルの経験についてお話をさせていただきます。自動車用ホースとキャニスターを製造していました。

ホースは用途により樹脂とゴムがあり、押出成形の方法で製造します。

押出成形の工程、並びにホースの種類については以下資料をご参照ください。

住友理工本社作成 自動車用ホース

押出成形工程

 

住友理工ブラジル製品

ガソリンスタンドと燃料価格

 

ホースの種類は以下の通りです。

(樹脂ホース)

燃料ホース

ブレーキブースター

冷却パイプ

(ゴムホース)

エアコンホース

パワステホース

Transmission Oil Cooler(TOC)

キャニスターとは、燃料蒸発ガス排出防止装置のことですが、ガソリンタンクから蒸発したり、不完全燃焼したりしたガスを活性炭でろ過して、再度燃焼室へ送り込む役割を持っています。

環境対策の進展もあり、キャニスターの役割はますます重要になってきています。

ここで一番力を入れたことは、開発力の向上と国際競争力の強化、それに安定した原材料の調達です。即ち本社に依存するだけではなく、自分たちの力とアイデアで新しい製品を開発していくことです。また、樹脂材料のほとんどは海外からの輸入に頼っており、原材料の安定的な調達も重要な課題となります。正しく、自動車産業はグローバル産業であり、発展途上国にあっても国際競争力がないとやっていけません。安かろう悪かろうは通用しません。

要は、自ら考える力を養い、顧客とも積極的に意見交換を行い、国際競争力のある良い製品を、顧客と一緒に、スピード感をもって、開発していくことです。この為にいち早く3Dプリンターを購入し、迅速に試作品をもって顧客と意見交換をすることを進め、同時に新規製品の特許申請を積極的に進めました。顧客とのコンタクトは、それまでは営業部門が行っていたのですが、技術部門も一緒に顧客訪問を行ったわけです。

結果は上々でした。顧客によっては、技術部門が製品、サプライヤーの決定権を持っているところもあったからです。

日本の本社から指示されることだけをやるのではなく、自分たちでこの会社を育てていくんだという気持ちを現地の社員に持ってもらうことが一番大事ではないかと思います。

 

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