会員紹介 小林英章様

会員の小林英章様よりご寄稿いただきましたので紹介いたします。

 

Re: ものづくりの雑感

1. ものづくりの要諦

なぜか上智大学外国語学部ロシア語学科を卒業して、広島で家業を継ぎ、工業用ゴム製品の製造を行っている中小企業でオヤジをやっています。
ものづくりの基本として「誰がいつ、どこで、作っても同じものを作る」と徹底的に習いました。これが担保されなければ、例えば安心して自動車に命を委ねることは出来ません。

2. 疑問点

ある日ふと疑問が頭のなかに浮かびました。家内が作る定番料理(=月に2回乃至3回食卓に出てくる料理、例えば肉じゃがとか)は何回食べても美味しくかつ新鮮に感激して食べる。しかし、コンビニで購入する同じのお弁当、総菜は①最初は美味しいと感じるのに②2回目は心がときめかない③3回目はもう勘弁して欲しいと感じる。これは何故だろうか?(おそらくこんなことを考えるのは私だけだと思いますが、話の進行上お付き合いをお願いします)というものでした。

3. 考えられる理由

その①

家内が料理を作る過程を観察しました。男子はレシピとおり正確に作る。例えばレシピに塩小さじ1杯とあると、キチンを摺り切りにして軽量する…云々
が、家内を見ていると、塩の量は計量スプーンも使わず、いい加減、といういか適当だった。これは男子にはかなりショックな出来事でした。理由を聞いてみると「レシピには、例えば玉ねぎ1/2をみじん切りにして…」とだけ書いてある。しかし玉ねぎは春に旬を迎える新玉ねぎもあれば、一冬を越してよくしまった玉ねぎもある。つまりレシピに書いてある塩の量はあくまでも参考であって、その時に使用する野菜に合わせて【適当に】調整しているのよ。

その②

コンビニで販売されているお弁当、総菜は基本工場で作られるいわゆる工業製品であると解釈出来ます。ということは「誰がいつ、どこで、作っても同じものを作る」という製造業の基本哲学が反映されています。恐らく具材の水分量、塩分量をコンマ台までコントロールして、必ず同じ味を大変な労力をかけて再現している…と私は同じ製造業者として考えました。

4. 想定されるであろう回答

その①

ここに盲点があるのでしょう。同じ料理といっても家内の作る定番の料理は(おそらく)毎回味が違う(塩味かももしくはその時の気分かも)。だから、見た目は同じ料理であっても食べると頭の中では新しい味である、つまり美味しいと感じるのだろう。(決して毎回美味しかったと言わないと、家内が般若面になる…とは言えません)

その②

しかし、コンビニで購入するお弁当、総菜は大変な労力を払って製造者が毎回同じ味を再現してくれているはずです。私の舌は前回食べたその味を記憶していて、2回目も一口食べると脳内ではこれはすでに食べたことのある味だ。新鮮味がない。感動を呼び起こさない…となっているのでしょう。3回目ともなると、見ただけで、すでに脳内で食事のシュミレーションが、食べる前にもかかわらず終わっていて、その結果食べる意欲も薄れ、お腹がすいているのだけど食欲を呼び起こさない…という悪循環に陥っているのでしょう。

その③(私なりのこの疑問に対する回答)

ここでの結論として、人間の舌(味覚)は一度食べたものはすべて記憶している。同じものを食べると瞬時に脳内の記憶と照らし合わせ、これは以前食べたことがあるから、味は分かる(つまり感動する必要はない)。この料理は見た目は同じに見えるが、食べてみると今までの記憶にない新しい味だ(だから新鮮で感動する)…という作業を毎回繰り返しているのでしょう、きっと。

5. 新たなる疑問(その①)

ではなぜ「人間はいままで食べた味をすべて記憶しているのだろうか?」という疑問が生まれます。

恐らくの回答

人類(哺乳類)が活動し始めた太古の昔、食事をすることは命がけの行為だったのでしょう。現代のように細かい情報があるはずもなく、食べてみて、これは食べても安全、これは食べると危険、この状態までは食べても問題ない、この状態を過ぎて食べると寝込むことになって、捕食者に命を奪われることになる。つまり、人類は一度食べた味を記憶しておかないと生存出来ない環境だった。これが現代になっても脳みその片隅に残っているから、一度食べた味は現代になっても覚えているのでしょう。この場合はおそらく塩分濃度であろうと私は考えています。現在に至る過程で人間の本能はどんどん薄くなってしまったけど、塩味に関する本能はまだ残っているのでしょう。

6. 再び新たなる疑問(その②)

私の場合、こういう状況(コンビニで昼食を買わなければならない。しかし、お弁当も飽きた…棚をながめても食べる気分にならない。だけど食べておかないといけない…)に陥った場合の対策として、おにぎりを買います。それも具は「梅」、「おかか」、「鮭」と「昆布」のどれかです。決してソーセージおにぎり、カレー風味おにぎり等の非定番おにぎりは選びません(これは先の法則のとおりです)。でも何故かこの4つの具のおにぎりだけは、工業製品であっても、おいしいと満足して食べることが私は出来るのです。そうすると「これは何故だろう?」という新しい疑問が次に頭に浮かびます(我ながらなんて面倒くさい性格なんだろうと思います)。

恐らくの回答

日本人に生まれてしまった以上、この具で作ったおにぎりは「いつ、どこでも、どんな状況でも」美味しいと感じるように我々のDNAに組み込まれている。これはこの具を使ったおにぎりが発明されて以来、お袋の味、おばあさんの味と世代を受け継ぎながら、すべての日本人のDNAに書き込まれているのでしょう。日本人ならば、この4つの具のおにぎりは工業用品を超越した存在になっている…ええ、これが今現在の私だけの結論です。

7. ここで本題

ゴムというのは実に料理と似ているところがあります。ゴムの配合もレシピと言うし、ゴムの工程はパン作りの工程と実はほとんど一緒なのです。
例えばゴム硬度の交差はいつも±5°です。ゴム硬度40°のゴムでも±5、90°のゴムでも±5(お客様によっては±2を要求されるケースもありますが、あくまで例外です)なのです。工業用品でこんなラフな交差が認められている材質はないですよね。ゴムは「誰がいつ、どこで、作っても同じものを作る」ことがものすごく難しい素材なのです。だからH3Aロケットの打ち上げが失敗した…とは言えませんが。リクエストがあれば、ゴムについて投稿をします。今日のところは字数制限のため、ここでペンを(筆ではなく)置くことにします。ながながとお付き合いいただきありがとうございました。

「会員紹介 小林英章様」への2件のフィードバック

  1. 日頃 ものづくりに腐心されている経験からの素晴らしい 考察に感嘆しました。が同時にこれは愛する奥さまへの単なるのろけじゃないのかとも思いました(^^)

  2. 3年ほど前からゴム業界に係ることになりましたが、いまだ門外漢ですので、是非ゴムの話を投稿お願いします。コンビニ飯は飽きるが、家庭料理は飽きないのは、確かに不思議です。コンビニは、それを分かっているので、次々と新商品を投入するのかもしれませんね。機械工学卒 守屋知洋

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