会員の大竹茂様よりご寄稿いただきましたので紹介いたします。
岩絵は祝絵
<深刻な地球の温暖化>
地球の温暖化の進行を主因とする異常気象は、世界の各地で巨大な山火事や水害をもたらしている。最近では、アマゾン河の支流が干ばつによる水位の低下で、川底に彫られたおよそ2000年前のものと見られる彫刻(岩絵)が露出して話題になっている。
記録的な干ばつは、エルニーニョ現象と大西洋の海水温の上昇が重なったことが主因で、それに加えて、アマゾンの熱帯雨林の急速な減少(特に違法伐採)も影響を及ぼしているものと見られている。因みに、ブラジルのアマゾンで、今年7月までの1年間に消失した熱帯雨林の面積はおよそ9000千平方キロメートルで、鹿児島県に匹敵する広さとのことである。
ブラジルに駐在し、アマゾン河を船で渡ったことのある自分としては、あの豊かな水を湛えたアマゾン河が干上がるなどとは信じられず、地球の温暖化と人災でもあるアマゾン森林の違法伐採が極めて深刻な状況にあることを物語っている。
<人類のアメリカ到着と岩絵>
人類のアメリカ大陸到着については、アフリカから、ヨーロッパから、太平洋から来たとの仮説もあるが、20万年前にアフリカで誕生したホモサピエンスが、2万年前にベーリング陸橋にやってきたものの、氷河に阻まれて南下できず、1万5千年前に無氷回廊ができてから合衆国あたりを抜け、それから一気に1万4千年前に南米大陸の南端まで達したとの仮説が現在有力である。
岩絵とは、露天の岩面や洞窟の壁面などに描かれた線刻画や彩色画のことを言うが、アマゾン河の川底に露出した岩絵(線刻画)はおよそ2000年前のものと見られている。
世界的な岩絵としては、およそ1万5千年前に描かれた牛の壁画で有名なスペインの
アルタミラの洞窟があるが、2002年9月に閉鎖された。幸いにも、自分は当時スペインに駐在しており、閉鎖の前に訪問することができた。閉鎖の理由として、多くの観光客が洞窟の中に殺到すると洞窟内の温度が上昇して、壁画に悪影響があると言われていた記憶がある。これは、人間が洞窟内の気温上昇の原因になっており、悩ましい問題である。
<岩絵―線刻画>
岩絵、特に中南米の線刻画については、コロンビア人の画家であるSantiago Rodriguez Plataの名前を挙げないわけにはいかない。彼は1974年生まれで、2002年コロンビア国立大学芸術学部修士課程を卒業後、永年に亘り、広大な中南米を自転車で廻り、線刻画を拓本として記録してきた。(2008年ヤマハのオートバイを購入)。私が、ブラジリアの日本大使館に勤務している時に、偶々、ブラジリアのインデイオ記念館(Memorial dos Povos
Indigenas)で、2006年10月-11月に拓本の展示会が行われた際に知り合った。彼の岩絵(線刻画)に対する情熱は、人類讃歌ともいうべきもので、高く評価すべきものと考える。
彼とは、その後、2007年1月、一緒にブラジリア近郊の遺跡に線刻画の拓本を取りに行き、その情熱に直接触れることができたことは、懐かしく、また、貴重な思い出でもある。
(添付写真参照)
- 線刻画拓本:Chile-IV Region,Valle del Encanto(サイズ縦140cm,横85cm)
- 線刻画拓本:Chile-IV Region,Valle del Encanto(サイズ縦110cm,横104cm)
- 線刻画拓本:Colombia- Cundinamarca-Nilo(サイズ縦140cm,横120cm)
- 01.24 Santiago Plata氏と共に、ブラジリア近郊で線刻画の拓本作業
<岩絵―彩色画>
また、ブラジルの岩絵―特に彩色画については、いくつか見学したが、その中で特に印象深いのはカピバラ国立公園である。この公園はブラジル北東部のピアウイ州の奥地にあり、広さ129千ヘクタール、これまでに約750か所の岩絵が発見され、その内172か所が公開されている。岩絵は約1万年前のものと想定されている。岩絵は当時の様子を生き生きと写し出している。私の好きな一品は親と子の絵である。私の勝手な想像では、母親がいたずらをした子供を叱っているように見え、大変ほほえましく感じられる。(添付写真参照)
5.2017.06.18ブラジルーカピバラ国立公園訪問(岩絵の前にて)
6.2017.06.18ブラジルーカピバラ国立公園訪問(左側―子供、右側-母親の岩絵?)
<岩絵は祝絵>
恐竜が絶滅した6,500万年前以降、哺乳類が地上で爆発的に適応し、霊長類は森林で樹上生活を開始した。樹上の環境と、移動様式、食物獲得方法を進化させ、ヒトの祖先が
地上に進出した。ヒトは直立二足歩行をおこない、約250万年前頃から石器を作り始めた。
我々の直接の祖先であるホモサピエンスは約20万年前にアフリカで誕生し、各地で様々な環境にモノづくりを通じて適応してきた。岩絵のモチーフは様々で、当時の生活を生き生きと写し出しており、正しく、岩絵は祝絵と言えるのではないだろうか。
関心のあられる方は是非、現場を訪問され、実物を見ていただきたい。きっと、人類を讃歌したいと思えるはずである。
1975年ポルトガル語学科卒 大竹茂